この物語は北欧神話をモチーフにしましたが
作者の都合上一部、北欧神話とは異なるところがあります。
ご了承ください。
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―登場人物紹介
―用語集
―第1章 運命の息子
―第2章 炎の剣レーヴァテイン
―第3章 仲間
―仲間―
道は続く、そしてそこには仲間がいる。
人で無いもの、人であるもの、人であったもの。
みな、仲間であり、心を持っている。
僕は人であったもの。
けど、神も、人も、魔物も死はある。
僕は恐れなんかしない。
そこに仲間がいるから。
そこに勇気があるから。
ムスペルヘイムから少し北に行ったところ、溶岩地帯からただの砂漠になった。
ここはムスペルヘイムに比べればとても過ごしやすい。
少しの緑もあるし、あの息苦しさもない。
そして、今日も相変わらずシグルズがウルズにアタックしてる。
「嗚呼、今日も綺麗だよウルズ。綺麗な君には何者も敵わないだろう」
「あーら、嬉しいお世辞だわー」
「お世辞じゃなんかないよ。俺は心のそこからそう思っているんだ」
「ハイハイ、何にもあげないわよ」
「…うー、そうじゃないんだなぁ…」
そして、見事にかわされる。
一方、僕たちは後ろでごちゃごちゃしているのを尻目に、ロキとへんな会話をしていた。
「おい、アキ。お前アレとってくれねぇか?」
「アレ?ですか?」
「"ムスカルニーニョの黒みつ固め"だって」
「…………?」
ロキがグリの横についている袋を漁ると、1つの黒イモリみたいのを出した。
「それが"ムスカルニーニョの黒みつ固め"ですか…?」
「おう、そうだ!これうまいんだぜー」
ロキは"ムスカルニーニョの黒みつ固め"を口に放り込むと、おいしそうにほおばっていた。
「…ロキさんって、人間の食べ物食べれなかったんじゃないんですか?」
「これは慣れた。うん、美味い。お前も食うか?」
次々に黒い物体を口に放り込む。
「…いりませんよ…。イモリみたいな物ですか?その物体」
「ムスカルニーニョ知らねぇーのかよ。えーっと、ミズガルズで買った」
「そんなこと誰も聞いてませんよ。ムスカルニーニョって昆虫なんですか?」
「違う。ムスカルニーニョはムスカルニーニョだ」
「話しがかみ合ってない…」
「???」
しばらく2人の間に沈黙が続く。
がその時、グリを含め、馬達が騒ぎ出した。
「何か感じる…、なかなか大きな力よ」
そして、大きな地鳴りがした。
「なんなんだよこの地鳴り」
「あーーー、多分魔物じゃねぇかぁ」
ロキの言葉にシグルズと僕が目を丸くする。
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」
しかし、2人は余裕の表情を見せていた。
「魔物なんてほんと久々!」
「そうだよなー、ヴァナヘイムは平和だったもんな」
「あぁぁぁ、なに余裕かましてんだよ!」
シグルズが焦るのも無理はない。
いくら女神でも女のウルズを戦わせるのは男としてプライドが許さないし、ロキは
相変わらずムスカルニーニョを食べていたからだ。
「うっせーなー。お前がやりゃいいだろ」
「な…」
シグルズが唖然としてると、地響きを起こしている張本人が地表へと姿を現した。
『グシャァァァァァァァァァァァァ』
地響きを起こしていたのはなんと巨大な砂魚だった。
「あーあ、つまんねぇの。たかがサンドフィッシュかよ」
ロキはたかがと言っているが、サンドフィッシュという魔物は
体長が4m弱もあり、その尾についた刃は砂漠を横断しようとする旅人の命を絶つ。
砂漠を泳ぐため、余り地表に出ることはない上に、凶暴なためその生態は未だ不明だ。
「アキ、シグルズお前らでやれ」
「え、何言ってんですか!僕、剣なんか使えません!」
「そうだよ俺だって…」
「アキちゃん、シグルズ。頑張ってね」
ウルズがそう言う。
「任せなウルズ!こんな魔物、俺が簡単に倒してやるぜ」
「えぇー…」
やる気満々のシグルズを尻目に、僕はまだ渋っていた。
「いっくぜー、アキ!ついて来い!」
「え、ちょ、シグルズ!」
シグルズはグラニを走らすと、腰につけてある長剣を抜いた。
「くったばれぇぇぇぇ」
シグルズは思いっきり剣を魔物に突き立てる。
「狽ーっ」
が、思った以上に長剣は切れ味がよく、深々と魔物の体に食い込んでしまった。
「ちょ、待てっ。取れねぇぇ」
魔物は痛みで暴れ狂い、長剣にしがみ付いている青年を振り落とそうとする。
一方ロキたちは…
「あ"−、腹痛てぇ。やべぇ、ムスカルニーニョが腹に当たったかも」
「あ、大変。お薬合ったっけ?」
「てか、俺たちって死ぬ事ってあるんかなぁ」
「神様死んだら元もこうもないでしょ」
「けど、血も出るし、叩かれると痛ーぞ。特に馬鹿力の誰かさんのは」
「どういう意味よ!」
ウルズがロキの頭を思いっきり叩く。
「いってー!!ほら見ろ!馬鹿力だ!」
「……もう一度叩かれて欲しい?」
『グルルルルルル』
未だに魔物の体にへばりついている青年が言った。
「アキー、俺が気を引いている今のうちに、魔物をやっつけてくれ!」
僕は未だ動けずにいた。
自分は本当に異世界に来てしまったのだと。
そして、見るもの全てが異様で、戦いの溢れるこの世界の運命を握っているのだと。
「アキ!そろそろ腕が…!」
「……」
いいのだろうか?もともと部外者の自分が関わって。
彼らはこの世界に生まれ、この世界と運命を共にする。
しかし、僕は母さん、フレイヤ女神の息子と言うだけで、この世界の運命を任された。
僕の勝手で、この世界に生きる人の運命をメチャクチャにしてしまっていいのだろうか?
「信じろ。お前が思ってるほど、この世界は弱くない」
いつの間にかロキが隣にいた。
「ええ、それにメチャクチャになっても、戻すために私たちがいるのよ」
そしてウルズも隣にいた。
「行ってこい。それに、お前はもうこの世界の住人だ」
ロキが僕の肩を押し、グリが進む。
「どうすんのさ、行くか行かないかはあんた次第だけど、シグルズって男そろそろやばいわよ」
グリがじれったそうに言う。
そして僕は言う。
「僕は逃げたかったかもしれない。けど、もう逃げないよ。グリ、僕は友達を助けたい。協力してくれ」
「イイわよ。でも、あんたのためじゃないわよ。あんたが死ぬとロキ様が悲しむから…」
グリはそう言い終わると、魔物の元へと走り出した。
「ヤベェ…もう…ムリかも…」
暴れる魔物にまだ引っ付いていたシグルズも限界を感じていた。
シグルズはもうだめだと感じた瞬間、体がフッと軽くなった感じがした。
「ごめんシグルズ。遅れた」
「へっ、バーカ…全然余裕だって…」
僕は魔物の攻撃を避け、シグルズをウルズのも元へと預けた。
「シグルズったら、こんなにもボロボロになって…」
「ハニー、言ったろ?任せなって…でも、ちょっとキツかったかな?」
そう言うと、シグルズは死んだように眠った。
「グリ、シグルズの剣まで行けるかい?」
「ふん、あたいを誰だと思ってるのよ。捕まってなさい!」
グリは大きく走り出すと、魔物が繰り出す攻撃をものともせずに走っていき、あっという間にシグルズの剣までたどり着いた。
僕は深々と刺さっているシグルズの剣、グラニを掴み、力いっぱい引き抜こうとした。
しかし、剣はなかなか抜けず、抜く際の痛みを感じた魔物の尾が僕に襲いかかった。
「アキちゃん危ない!」
ウルズが叫んだと同時に、そこには信じられない事が起こっていた。
なんと、アキは眩いばかりの光に包まれていたのだ。
そして、アキに襲いかかろうとしていた尾は動きを止め、魔物は恐ろしい形相のまま固まっていた。
「な、なんだ?!」
アキが自分の身に起きたことを理解できずにいると、光は徐々に治まっていき、いつもの自分へと戻っていた。
アキはとり合えずグラニを引き抜くと、そーっと魔物の様子を伺った。
相変わらず魔物は止まったままで、心配そうに近寄ってきたウルズが指で突っついても何も起きなかった。
「…どうしちゃったんでしょうか?」
心配そうに尋ねるとウルズは、不思議そうにこう言った。
「さぁ?こんな魔法なんかも見たことないわ。…もしかして、アキちゃんが魔法使ったのかもね!」
「えぇ!?僕が!!ありえないですよ!」
後ろからロキが割って入ってきた。
「ありえねぇこともねぇぜ。だってお前、フレイヤのこどもなんだぞ。
フレイヤは超スゲェ魔法使いだからな、その血が受け継がれているのかも…」
ロキが話し終わり、僕が何気なく魔物の体に触れると、なんと、突然魔物の体が崩れ、砂となった。
「「「…????」」」
3人とも何が起こったのか分らず、しばらく放心状態になっていると、眠っていたシグルズが眼を覚ました。
「…ほぁ??どうなってんだ?あの魔物は??」
「うーん、話すと長いんだけどね…」
僕が困ったような仕草をした。
「めんどくせぇから手短に言うぞ。アキが魔法使ってやっつけた!ハイ、終了!!」
ロキがめんどくさそうに言った。
が、当然シグルズは分る筈も無く…
「はぁ!?訳わかんねーって!」
「うっせーな、訳わかれや!!」
ロキ、逆ギレ。
「なんだとゴルァ!この筋肉馬鹿が!!」
「てめぇ…、いい度胸してんなぁっ!!このピアスがっ!」
「はー、てめぇは悪口の言い方も知らねぇのかよっ!!ピアスはてめぇも付けてるだろうが!」
ますますヒートアップ。
「うっせーな!ミンチにするぞ、このチビッ!」
「何だと!こっちこそ刺すぞ、この馬鹿!」
さすがに止めなければならないので、ウルズが1回ため息をすると、頭の羽飾りの先っちょでロキの頭を刺した!
「痛ったーーーーーっ!!!何すんだよ!!」
シグルズがゲラゲラ笑っていると、ウルズは柄に入った剣でシグルズの頭を1回叩いた。
「なにすんのさー、ウルズ!」
「2人とも!阿呆な事ばっかりやってんじゃないの!アキちゃんを見習いなさい!!」
2人ともふてくされた様にしていた。
僕はその光景を見て、思わずふっと笑ってしまった。
「…何が可笑しいんだよ、アキ」
シグルズが言う。
「いや、なんかさっきまでの緊張はどこに行ったのかなーって」
そういえば、さっきまでの殺気立った面影は何処にもない。
「ほんとっ!さっきまでとは大違い!」
いっせいにみんなが笑う。
「一応悪かったな…」
小さくシグルズがロキに言う。
「ふん、別に…気にしてねーし…」
僕には2人が本当はもっと仲がいいんだなと思った。
ただ、いじっぱりなだけ、子供だなぁ…。
そう思っていると、シグルズが言った。
「よし!気を取り直して、次の目的地へ行くぞー…ってどこ行くんだっけ?」
「次は、巨人の国、ヨトゥンヘイムだ!!」
僕は、ロキの言ったその言葉に、何かを感じた。
「なんだよ、またより道かよぉ」
「あのねシグルズ。ヨトゥンヘイムはアース神族の領地と
ヴァン神族の領地の境にあって、封印されている塔に行くにはヨトゥンヘイムを通過するのが一番近道なのよ」
「へーそうなんだ!じゃぁ、ヨトゥンヘイムに向けてしゅっぱーつ!!行こうぜアキ!」
シグルズはさっきまで疲れていたことは忘れていたかのように元気だった。
「うん!」
僕はグリの手綱を引き、駆け出した。
「ったく、元気なガキだなぁ」
「あら、あなたも人のこと言えてないんじゃない?」
「俺はガキじゃねぇよ!」
「はいはい。って、あの子達、場所知らないじゃないの!」
ウルズは急いで手綱を引くと、急いでアキたちを追いかける。
「あっ!ちょ、ちょっと待てって!!」
ロキも急いで手綱を引きウルズの後を追う。
ぎらぎらと輝く太陽はすでに西のほうに沈みかけており、反対側からは
まるでアキ達の行く先を案じているように、怪しく光る月が丘より出掛かっていた。
「アレが、フレイヤ女神の息子か…」
そして、その月を背景とし、小高い丘よりアキ達を始終眺めていた影があった。
「面白くなりそうだ…」
その影はニヤリと笑い、フッと姿を消した。
味方か敵なのかは定かではない。
しかし、この影がこの物語の鍵を握っているのは確かである。
・真の友をもてないのはまったく惨めな孤独である。
友人が無ければ世界は荒野に過ぎない。
- Francis Bacon(フランシス=ベーコン)
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